パニック症(障害)
パニック症/パニック障害とは
パニック症(パニック障害ともいいます)とは、突然理由もなく動悸、呼吸困難、胸痛、めまい、吐き気などの多彩な体の症状が出現し、「死んでしまうかも・・・」といった激しい不安に襲われるといったパニック発作を繰り返す病気です。
発作は10分以内にピークに達し、通常数分~数十分程度で自然と治まるため、救急車で病院に運び込まれるけれども、どこを調べても体には異常はなく、ほとんどの場合そのまま帰宅となってしまいます。そして、通常の体の検査をしても特に異常はなく、「どこも悪くない」、「気にしすぎ」、「これ以上どうしようもない」といった説明だけで適切な対応をしてもらえないなどといった事例もあるようです。不安はつのるばかりなのに、誰もわかってくれない、そんなつらい思いを経験される方もいらっしゃいます。
パニック症は珍しい病気ではありません。一生の間にパニック症になる人は100人に1~2人といわれます。また、男性よりも女性に発症しやすいともいわれています。
ここで、注意して頂きたいのは、「パニック発作」と「パニック障害」の違いです。アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では、パニック発作とは、突然激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時に4つ以上の症状(動悸や発汗などの不安症状や、死ぬのではないかという恐怖等)があるものです。そしてパニック症とは、このパニック発作が、2度以上予期せずに突然起こり、その発作の後も1か月以上予期不安が続いたり、大変な病気になってしまったと悩んだり、仕事をやめるなどの大きな行動上の変化が起こっているものをいいます。なお「予期しない発作」とは、状況などに関係なく起きる発作のことです。パニック発作は後述するように、生き延びるための生体反応という面もあります。そのため例えば火事や災害などの危機的状況でパニック発作が起きてもおかしくはないわけです。ですので心理的な理由のあるパニック発作だったり、パニック発作が一度だけだったりする場合はパニック症と診断しないことに注意が必要です。
パニック症の症状
パニック症は、パニック発作から始まります。発作をくりかえすうちに、発作のない時に予期不安や広場恐怖といった症状が現れることがあります。また、うつ症状をともなうこともあります。
パニック発作
パニック発作とは、突然激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時に以下の13項目のうち4つ以上の症状が起こるものです(アメリカ精神医学会DSM-5)
- 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
- 発汗
- 身震いまたは震え
- 息切れ感または息苦しさ
- 窒息感
- 胸痛または胸部の不快感
- 嘔気または腹部の不快感
- めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
- 寒気または熱感
- 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
- 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
- 抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
- 死ぬことに対する恐怖
そして、繰り返される「予期しないパニック発作」は、パニック症の特徴的な症状です。「予期しない発作」とは、状況に関係なく起きる発作のことをいいます。したがって寝ている時に発作が起きることもあります。前述のようにパニック発作はパニック症でなくてもみられます。例えば高所恐怖症の人が高い所に無理やりつれていかれた時にはパニック発作を起こすことがあります。ただしこれは特定の状況に直面した時に起きる反応で、パニック症でみられる「予期しない発作」ではありません。
ワンポイント
ここで、パニックは死の危険から生き延びるために備わっている反応という理解をしておきましょう。火事や地震、危険な動物など、突発的な生命の危機に直面した時、多くの人はパニック状態に陥ります。心臓がドキドキして、汗をかいて冷静に物事が考えられなくなって、じっとしていられなくなります。こうした反応はいずれも、敵や災害から逃げるために有利なもので、体に備わった生き延びるためのものです。「戦うか逃げるか反応fight or flight response」ともいわれます。
パニック障害は、命の危険がないのに、まるで命が脅かされているような不安や恐怖を感じ、体にもパニック状態でみられるような症状が起きるため、いわば「火災報知器の誤作動」が起こったような状態です。
これら生命の危機に直面したような発作が何度も起きれば「死んでしまうかもしれない」と心配になってしまうものですが、パニック症の発作で死ぬことはありませんのでご安心ください。
予期不安
パニック発作を繰り返すうちに、発作のない時も次の発作を恐れるようになります。「また起きるのではないか」「次はもっと激しい発作ではないか」「次に発作が起きたら気がおかしくなってしまう」「今度こそ死んでしまうのでは」といった不安が消えなくなります。これが「予期不安」で、パニック症に多くみられる症状です。
広場恐怖
発作が起きた時、そこから逃げられないのではないか、助けが得られないのではないか、恥をかくのではないか、と思える苦手な場所ができて、その場所や状況を避けるようになります。これを「広場恐怖」といいます。苦手な場所は広場とは限らず、単独外出、電車、美容院など、人によって様々です。この広場恐怖が強くなると、日常生活や人間関係に制限が出てしまうため、ますます気持ちも落ち込むといった悪循環もみられます。
パニック症の原因
パニック症の原因は、近年の生物学的な研究の進展とともに、脳内の神経伝達物質の異常が主な要因になって発症、増悪する不安症(障害)であると考えられるようになりました。主に扁桃体を中心とした恐怖ネットワークとの関わりが想定されています。
しかし、その一方でパニック症は、ストレスや過労が発症に先立つことが多いことや、不安と施行の悪循環によって発作が習慣化すること、予期不安による日常的な不安・緊張の高まり、回避行動としての広場恐怖の進展と日常の不安・緊張の更なる高まりなどが問題になる「心の病気」としての側面があることにも留意が必要です。
このため、パニック症には脳と心の両面からのアプローチをおこないます。
パニック症の治療
まず大切なこととしていえるのは、体の病気を見逃さないことです。動悸、息切れ、胸痛、めまい、発汗、嘔気などは実際に体の病気がある場合がありますので、症状に応じて一度は内科的に評価してもらうことが望ましいといえます。内科的な異常がないにも関わらず症状を繰り返し、パニック症と診断される場合、薬による治療と認知行動療法を行います。
発作はとてもつらいものですので、まずは薬で発作の軽減・消失をはかり、そこから精神療法(特に認知行動療法)をおこなっていくことが一般的です。
- 薬物療法
薬物による治療では、パニック発作の消失がまず第一目標です。次いで「予期不安や広場恐怖もできるだけ軽減させる」ことが目標です。一般的にはSSRIをはじめとする抗うつ薬と抗不安薬を用います。なぜ抗うつ薬を用いるかと申しますと、不安が出るたびに抑えるのではなく、不安を元から和らげる作用があることがわかってきたからです。パニック障害は薬物療法が効果を発揮しやすい障害です。「薬に頼らず気持ちだけで治す」というのは得策ではありません。もちろん、お薬の副作用などの心配はあると思いますので、その際はお気軽にご相談下さい。 - 精神療法
パニック症では、薬物治療に加えて精神療法の併用が重要です。当院では主に認知行動療法(エクスポージャー療法)を行いますが、認知行動療法は、薬による治療と同じくらいパニック障害に治療効果があるといわれています。薬が効き始めて発作が楽になってきたら、苦手な外出などに少しずつチャレンジしてみることも治療の一環です。ただ、無理はせず医師と相談しながら、少しずつ前進していくつもりでとりかかってみましょう。
上記でお困りの方は、JR埼京線、北戸田駅前の心療内科・精神科・メンタルクリニック、北戸田駅前まつもとクリニックまでお気軽にご相談下さい。
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※参考文献
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)
カプラン臨床精神医学テキスト(メディカルサイエンスインターナショナル)