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その他の認知症

その他の認知症について

年をとると誰もが、人の名前をすぐに思い出せなかったり、ものをどこにしまったか忘れたりするものです。認知症は、そのような加齢によるもの忘れとは違って、正常に働いていた記憶や思考などの機能が低下します。脳の病気や障害によりこの脳の機能が低下し、日常生活に支障を来たした状態です。具体的にいうと、数分前、数日前の出来事を思い出せない、新しいことをおぼえられない、日付や曜日がわからない、言葉が出てこない、家事や仕事の要領が悪くなる、家電製品を上手く使えないなどの困難が生じて、以前のように日常生活を上手く送ることができなくなります。

皆さんのご想像通りかとは思いますが、年をとるほど、認知症になりやすくなります。2013年の厚生労働省の研究事業によると、65歳以上の約16%が認知症であると推計されています。また80歳代後半であれば男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症であることが明らかになりました。なお日本は世界一の長寿国であり、2015年の同省研究事業によると、2025年には高齢者の5人に1人、国民の17人に1人が認知症になるものと予測されています。

認知症で一番多いのが「アルツハイマー型認知症」です。報告にもよりますが、次いで多いのが「レビー小体型認知症」で、男性にやや多いと言われています。次に脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」があり、この3つで3大認知症といわれています。これらで認知症のほぼ9割弱を占めており、残りの疾患が比較的まれなものになります。
今回のページでご紹介するものは、上記の血管性認知症と共に、比較的まれな認知症、また身体の病気に伴って起きる認知症についてです。

現在の認知症医療においては、介護やケアも重要な要素とわかってきました。まずはどのような病気かを知ることで、理解が深まることもありますので、お気軽にご相談頂ければと思います。

血管性認知症とは

脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により、その結果認知機能の低下を来たした状態です。

NINDS-AIRENの診断基準では、以下のようにわけられます。

  • 多発する梗塞によるもの
  • 高次脳機能に直接関与する重要部位の単一病変によるもの
  • 小血管の病変によるもの(多発ラクナ梗塞、ビンスワンガー病)
  • 脳循環不全によるもの
  • 脳内出血におるもの
  • その他のもの

血管性認知症では、脳卒中発症後に認知症を呈することや、卒中発作を起こすごとに階段状に症状が進行することが特徴です。なおビンスワンガー病のように緩徐進行性のものもあります。

血管性認知症の病態や危険因子は多様ですので、脳血管障害のタイプに対応した予防対策が望まれます。

認知機能障害(中核症状)の治療ですが、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬は一定の効果を示す可能性があるという報告はありますが、現在本邦では保険適応はありません。なおまた上記の効果は併存するアルツハイマー型認知症に対しての効果を介している可能性は否定できないとされています。

抑うつや不安、意欲低下などの行動心理症状BPSDに対しては薬物療法も検討されます。抑うつに対してはSSRIなどの抗うつ薬が選択されます。ニセルゴリンやアマンタジンなども意欲低下に保険の適応があります。せん妄や興奮・易怒性・不穏などに対しては、チアプリドが保険適応です。

前頭側頭型認知症とは

「前頭側頭葉変性症」という言葉は、病理学的もしくは遺伝的に確定診断がついたものに対して使われる病名で、臨床診断名としては一般に前頭側頭型認知症が使われています。そのためこのページでは後者で説明させて頂きます。

臨床症状に基づき、下記の3型にわけられます。

  1. 行動障害型前頭側頭型認知症(前頭前野の萎縮)
    脱抑制行動、共感や感情移入の欠如、固執・常同性、口唇傾向と食習慣の変化などがみられます
  2. 意味性認知症(側頭極ならびに中・下側頭回などの限局萎縮)
    物品呼称や単語理解の障害などがみられます
  3. 進行性非流暢性失語(左優位でシルビウス裂周囲の限局萎縮)
    進行性の失語を呈し、発話における失文法と、不規則な音韻の誤りやゆがみを特徴とする発語失行が特徴的です。

上記の前頭側頭型認知症は、現時点では薬物療法の効果が限定的と考えられており、近年は非薬物療法が検討されています。特にご家族の疾患へのご理解と、環境の調整が必要です。こだわり行動で日常生活に問題が生じてしまっている場合などは、そのこだわり行動を他の適応的な行動への変容を目指すルーチーン化行動療法などが、近年行われています。

前頭側頭型認知症を含めた比較的稀な認知症疾患は、専門の医療機関での詳しい検査などが必要です。診察にて可能性が認められた場合には専門医療機関を紹介させて頂くともございます。

嗜銀顆粒性認知症とは

脳内の嗜銀顆粒状の構造物を特徴とする変性疾患です。認知症を呈さない例もあることから、嗜銀顆粒病と称されることが一般的です。
嗜銀顆粒性認知症の臨床的な特徴は、高齢発症で緩徐な進行、記憶障害で発症するが頑固・易怒性・被害妄想・性格変化・暴力行動などの行動心理症状BPSDがみられる、などがあります。
画像検査では、左右差を伴う、迂回回を中心とする側頭葉内側面前方の萎縮などが報告されています。
現時点では特徴的な治療法はなく、臨床的に本症が疑われた場合でもアルツハイマー型認知症に準じた治療が行われています。

神経原線維変化型老年期認知症とは

海馬を中心に多数の神経原線維変化(NFT)が認められる老年期認知症です。90歳以上の認知症発症例の20%を占めるともいわれます。海馬領域は加齢とともにNFTが出現しやすい領域であり、本症は、脳の老化過程が加速された病態と考えられています。
臨床的な特徴としては、後期高齢者に多く緩徐進行で、記憶障害で初発、他の認知機能障害や人格変化は比較的軽度、まれにせん妄、軽度の錐体外路症状がみられるといったものです。
画像検査では海馬領域の萎縮、側脳室下角の開大がみられます。
実臨床では多くはアルツハイマー型認知症としてコリンエステラーゼ阻害薬が投与されていますが、有効性が証明された治療は現在の時点ではありません。

進行性核上性麻痺・皮質基底核変性症などの神経変性疾患

進行性核上性麻痺はパーキンソン症状を呈する疾患群のなかで、パーキンソン病に次いで頻度が高く、中年以降に発症する神経変性疾患です。半数の症例では、認知症、人格変化、感情障害、記憶障害などで発症しますが、その認知症症状は思考緩慢、衝動性、固執性、保続などで皮質下認知症と総称されます。

皮質基底核変性症は、進行性かつ非対称性の失行をはじめとする大脳皮質徴候と筋強剛をはじめとする錐体外路徴候を中核とします。遂行機能障害や脱抑制などの行動・人格変化、視空間障害、非流暢性失語がみられます。

※なおこれらの神経変性疾患が疑われた際は、神経内科を専門とされている医療機関にご紹介させて頂きます。

内科的疾患等による認知症

  • ビタミン欠乏症
    ビタミンB1欠乏症は急性の代謝脳症であるウェルニッケ脳症を発症し、意識障害、眼球運動障害、運動失調がみられます。ウェルニッケ脳症は治療が奏功しなければコルサコフ症候群に移行し見当識障害や作話、病識欠如などがみられます。
    ビタミンB12欠乏症では記憶障害や精神症状をきたします。
    葉酸欠乏でもビタミンB12欠乏と同様の認知機能障害を呈するといわれています。
    近年では、ビタミンD欠乏についても認知機能障害をきたす可能性が示唆されています。
  • 甲状腺機能低下症
    顕性の甲状腺機能低下症では、認知機能は広範に障害され、一般知能、注意集中力、記憶、知覚機能、実行機能の障害を認めますが、特に記憶障害、言語障害が一貫して報告されています。
    橋本脳症では、急性の意識障害、せん妄、幻覚などの精神症状、認知機能障害、慢性の症状では抑うつ症状や不安を認めます。
  • 神経梅毒
    神経梅毒は梅毒トレポネーマによる神経感染症です。初感染後、神経系への浸潤をきたし、感染後15~20年以上経過してから発症します。認知症症状としては、見当識障害、記銘力障害、判断力低下などのほか、幻覚・妄想・易怒性・けいれんなどを呈します。
その他
  • 高カルシウム血症
  • 特発性正常圧水頭症
  • 慢性硬膜下血腫
  • 脳腫瘍、脳炎、神経ベーチェット、多発性硬化症
  • HIV脳症、プリオン病
  • 薬剤による一過性の認知機能低下
  • アルコール性認知症

などが挙げられます。

精神科的疾患による認知症

高齢者のうつ病が認知症のようにみえることがあり注意を要します。高齢者のうつは、落ち込んだ気分や不安焦燥が目立たず、精神の活動低下が目立つことがあるからです。うつ病性仮性認知症などと呼ばれ、うつ病の治療をすることで回復します。うつ病と認知症の鑑別ですが、うつ病においては、ご本人のもの忘れの自覚が強く、深刻で、気分の落ち込みが目立ちます。

またせん妄を一時的に来たしていることが認知症と間違われることはよくあります。せん妄とは、身体疾患や環境変化の影響により起きる、意識変容・意識混濁を伴う意識障害です。せん妄を脳波という検査でみてみると、波が遅くなり、意識障害の波がみられます。せん妄と認知症の鑑別は、認知症がゆっくりと進行していくものであるのに対し、せん妄は発症時期が明確で、一日のうちでも変動が目立ちます。せん妄は原因となっている疾患や環境の治療をすることで回復します。
よく「うちのおじいちゃんが入院したら認知症になってしまった」というご家族の意見をお聞きしますが、認知症は環境変化の影響ですぐ発症するものではありません。一般的にそういった急性の変化は、せん妄を来たした、もしくは隠れて存在していた認知症が前面に出てきた、などが想定され、まずはせん妄を来たしうる要素がないか検討することは有用です。

その他には、統合失調症、虚偽性障害、知的障害などが認知症の鑑別に挙がります。

ご家族へのメッセージ

「人と接する機会を増やすこと」「生きがいや趣味、楽しみ持つこと」「ご本人に役割をもってもらうこと」は、人とのコミュニケーションを通じて心身を活性化し、社会性の維持に役立ちます。

引きこもりの悪循環から脱するためには、介護保険のデイサービスを利用することをおすすめします。介護者の方も日々の介護から離れて、ご自分が楽しめる時間を持つことが大切です。

なおご家族が、疾患についての今後の見通しや、対応の仕方を身につけることは、ご家族自身の安心につながるだけでなく、巡り巡ってご本人さんの安定化にもつながります。そして結果として介護負担が軽減するといった好循環が起きることもありますので、日常悩んでいることは医療者にお聞きください。

なお医療者が病気の進行具合と治療効果を判断する上で、ご家族の日々の観察はとても貴重な情報源です。最近、できなくなったことや症状の変化、お薬で変わったことなどがあれば、メモにまとめておくとスムーズに伝えることができます。受診時に受付で渡して目を通してもらうなども良いかもしれません。
介護者の方もまた、ケアされるべき存在です。介護による燃え尽きなどを予防するためにも、介護のお悩みに関してもお気軽にご相談頂ければ幸いです。

認知症のご本人やご家族は孤立してしまいがちですが、経験をわかちあえる場、心の支えとして、「家族会」があります。お住まいの地域の家族会に関する情報は、ケアマネージャーや地域包括支援センターに聞いてみるのも良いかもしれません。

TOPIC:利用できる社会資源

地域包括支援センターを活用しましょう。地域包括支援センターはご高齢の方の介護・健康・福祉・医療生活に関する総合相談窓口として、地域の様々な資源と結びつくためのお手伝いをしてくれます。

  • 介護保険の申請(要介護認定)
  • ケアマネージャーによるケアプランの作成
  • デイサービス(通所介護)
  • ショートステイ(短期入所生活介護)
  • 訪問看護
  • 小規模多機能型居宅介護
  • 介護保険による住宅改修
  • 成年後見制度の活用

介護保険サービス以外にも、ご本人とご家族の助けになる社会資源として、自治体では下記のような様々なサービスを提供しています。地域によって異なりますので、ケアマネや地域包括支援センターに聞いてみましょう。また地域のボランティアやNPO法人、民間企業などが提供しているサービスもあります。

  • 配食サービス
  • 外出支援サービス
  • 徘徊見守ネットワーク
  • ご家族の留守中の見守りサービス
  • 訪問理容・美容サービス
  • 日常生活自立支援事業
  • 寝具の乾燥・洗濯サービス

 

※上記でお困りの方は、JR埼京線、北戸田駅前の心療内科・精神科・メンタルクリニック、北戸田駅前まつもとクリニックまでお気軽にご相談下さい。

戸田市・蕨市・さいたま市南区からアクセス良好で通院がしやすい場所にあります。また外環下の国道298号から近く、17号バイパスも比較的近いので、川口市や桜区の方のお車移動も便利です。

参考文献
認知症疾患治療ガイドライン2017(医学書院)
認知症テキストブック(中外医学社)
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)
カプラン臨床精神医学テキスト(メディカルサイエンスインターナショナル)

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