社交不安症(障害)
社交不安症(社交不安障害・社交恐怖)とは
程度の差はあれ、大勢の人前で話したり、初対面の人に会うときには緊張するものです。また、「人からどう思われているか?」ということが全く気にならないという人は稀だと思います。こういった緊張は誰にでもあることですが、たいていは経験を積むにつれて自然に振る舞えるようになります。しかし「社交不安症(SAD:Social Anxiety Disorder)」(社交不安障害・社交恐怖ともいいます)になりますと、人前で失敗するのではないか、恥をかくのではないかという不安が強くなりすぎて、人の集まりを避けたり、ひどい場合は家から出られなくなったりして、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。また、たとえその場にいることができたとしても強い不安や苦痛が出現し、ふるえや、赤面、発汗、動悸などのからだの症状がみられこともあります。自分でも、すこし極端だと自覚はしているのですが、どうにもならないことが多く、結果として仕事上や学校で不都合をかかえることになります。
現在、日本ではこの病気で悩んでいる人が約300万人以上いるといわれており、一生のどこかの時点でこの社交不安障害となるは3-13%と報告されています。身近な疾患といえるでしょう。発症年齢の多くは10代半ばから20代前半で、男女の差はほとんどみられません。
近年、薬物の有効性が確認されており、薬を内服しながら、人前での行動に「慣れる」練習が治療となります。患者さまの状況に応じて段階的な練習を考えることもあります。
患者様は症状をご自身の性格上の欠点ととらえている方が多いようです。そのため、長期にわたり一人で悩みつづけているケースが少なくありません。社会生活の支障以外にも、うつ病の合併や、不安や緊張を紛らわすためにアルコール依存などがみられることがあります。社交不安症は、治療可能な疾患であるということをご理解頂ければと思います。
社交不安症の症状やあがり症状でお困りの方は、我慢しすぎず、お気軽にご相談頂ければと思います。
社交不安症の症状
社交不安症の患者様は、ご自身でも不合理と思うほど周りからの否定的な評価をおそれ、人前で自分が恥をかいたり、失敗したりする可能性がある状況や行為を恐れます。
具体的には、それほど親しくない人と会ったり、人から注目されるような社会的状況、人前での電話や食事、字を書くなどの社会的行為などに強い恐怖と恥ずかしさを感じます。
また恐怖にともない、緊張・発汗・ふるえ・赤面・動悸・息苦しさ・声が出にくい・吐き気・胃のむかつき・尿意・ぎこちない動きなど、体にも症状があらわれるためご本人の苦痛は強く、またこれらの症状が余計に「変に思われるのではないか」といった不安や恥ずかしさにつながり、緊張を高めるという悪循環がみられます。
そして、このような症状が対人場面においてまた現れるのではないかという「予期不安」にさいなまれ、次第に症状が現れた状況や行為を避けるようになります。これを「回避行動」といいます。
これらは、サインする場面や、 電車の中や電話対応など、特定の場面のみで不安症状の出る「非全般性」と、人と接するあらゆる場面で症状が出る「全般性」に分かれます。
社交不安症の原因
発症の原因はまだはっきりとは解明されていないのが現状ですが、大きくは2つ言われており、「脳内の情報伝達信号の乱れ」 と、ご本人に「不安を感じやすい性格傾向」があることです。また現在は複雑な人間関係が生じ、緊張や不安を感じやすくなる社会環境も背景にあるともいわれます。
社交不安症(SAD)の方は不安な状況に対し、健康な人よりも脳の反応が過敏になっています。 脳内の神経伝達物質のバランスが乱れ、特に「恐怖・不安」を和らげる役目を果たすセロトニンなどの神経伝達物質の働きがうまく機能していない、また恐怖や不安に関与する脳内の扁桃体が過敏となっていることなどが指摘されています。
社交不安症になりやすい性格傾向としては「責任感が強く」「完璧主義」「心配性で過敏性がある」「人から良くおもわれたい」等があるといわれています。また社会的状況における認知の歪み、社会的スキルの欠如なども指摘されています。
検査としては、主にM.I.N.I.(精神疾患簡易構造化面接法)が診断に、重症度はLSAS(リーボビッツ社会不安障害評価尺度)が用いられることがあります。
動悸や震え、発汗などは甲状腺機能亢進症でもみられるため、その疑いがある場合には血液検査などを行うこともあります。
社交不安症の治療
社交不安症(SAD)の治療の柱は「お薬の服用」と「精神療法」です。両方を併用すると治療効果が高いといわれています。
お薬の服用は、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、恐怖や不安を和らげます。カウンセリングなどの精神療法は、認知行動療法や暴露療法などいくつかの手法が挙げられます。
- 薬物療法
主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬を内服することで、脳内のセロトニンのバランスを整えます。服用後、効果が現れるまでには個人差がありますが、約2週間~2か月ほどで徐々に症状が緩和されます。また即効性が高い抗不安薬をSSRIの効果がでるまでの補助薬として使用することもあります。また降圧薬のβ遮断薬を震えや動悸、発汗などに対しても用いる場合もあります。 - 精神療法
不安や恐怖にとらわれている思考パターンを変えたり、緊張感をやわらげたりすることで、回避行動を減らします。
認知行動療法:社交不安症の人は、ある出来事に対して偏った考えやとらえ方(自動思考)から回避行動をとってしまっているため、他のとらえ方を考えるなどで行動を変える方法です。
暴露療法(エクスポージャー):不安な場面を避けていると、ますます恐怖は大きくなり苦手になります。そこで、不安を感じる苦手な場面にあえて身をおき、一番不安の低い状況から、だんだんと不安の高い状況へ段階的に慣れていくという療法です。
社交不安症では、緊張する状況で更に緊張や不安を意識しすぎて余計に緊張を強めてしまったり、その様な場面に出現することと身体症状の出現を強く結びつけてしまっているなどの状況があります。また症状から自己否定が強くなっている場合などもあるため、患者さまそれぞれの状況に応じて、オーダーメイドで治療方法を組み立てていきます。
治療の目標は「緊張を全くしなくなること」ではありません。緊張は誰にでもある自然な現象です。この緊張を「あってはならない」「恥ずかしいこと」と考え、他人の目を意識しすぎる程、症状は余計悪化してしまいます。そのため、治療の目標は「緊張したっていいや」といった緊張との程よい付き合いを身につけたり、考え方の癖を変えることになります。これが結果的に緊張の軽減につながります。また、どうして対人場面で不安になりやすいのかを考えてみると、「人から良くみられたい」「自分は注目されている」といった自意識が強すぎるといった場合もあり、そういった点についても治療者と一緒に考えていくことは有用かもしれません。
※上記でお困りの方はJR埼京線、北戸田駅前の心療内科・精神科・メンタルクリニック、北戸田駅前まつもとクリニックまでお気軽にご相談下さい。
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参考文献
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)
カプラン臨床精神医学テキスト(メディカルサイエンスインターナショナル)