統合失調症
統合失調症とは
統合失調症は、脳の様々な働きをまとめることが難しくなるために、こころや考えがまとまりづらくなり、幻覚や妄想などの症状が出ることのある病気です。そのため気分や行動、人間関係などに影響が出てきます。「コミュニケーションをとりながら家庭や社会で生活を営むことが難しくなる」「ご自分自身では病気だと気づきにくい」などの特徴があるといわれています。
この病気は脳の神経ネットワークにトラブルが生じる「脳」の機能障害と考えられています。思春期から青年期に発症することが多く、日本での統合失調症の患者さんは約80万人といわれます。生涯のうちに統合失調症を発症する人は全体の人口の0.85%(120人に1人)程で、比較的頻度の高い病気といえます。それだけ、統合失調症は身近な病気といえます。生まれながらストレスに対するもろさがあり、そこに耐えきれないストレスがかかると、脳内の神経系のバランスがくずれて発症すると言われます。
かつて統合失調症は、人柄が変わってしまうような難しい病気と考えられていました。しかし現在では治療効果の高いお薬が開発され、この薬を使った治療と、専門家との相談やリハビリなどの心理社会療法により、多くの患者さんが通常の日常生活を送られています。
周囲から見ると、実際はないのに悪口を言われたなどの被害を訴える、話がまとまらず支離滅裂になる、独り言を言っている、人と関わらず一人でいることが多いなどの行動がサインとして表れます。早く治療を始めるほど、回復も早いといわれていますので、周囲が様子に気づいたときは早めに専門機関に相談してみましょう。
統合失調症の症状
症状は人によりさまざまですが、主に①「陽性症状」、②「陰性症状」があります。その他に「認知機能障害」(注意力、集中力や記憶力が低下し、今まで出来ていた仕事や課題ができなくなるなど)や「感情障害」(憂うつな気分や不安・イライラが強まるなど)があります。
これらの症状や障害のため、多くの患者さんで「生活障害」がみられます。病気になったことで生じる日常生活のしづらさのことです。対人関係、日常生活、働く事において障害がみられます。この生活障害は、お若くして発症したことによる経験不足や、陰性症状が影響しているともいわれ、精神科リハビリテーションを利用して改善を図ります。
- 陽性症状
現実にはないものをあるように感じる症状のことで、典型的なものは「幻覚」と「妄想」です。
「幻覚」とは、実際にはないものをあるように感じる知覚の異常です。幻聴、幻視、幻臭など様々なものがあります。その中で統合失調症に最も多くみられるのが幻聴です。周りの人には聞こえない声が聞こえるものです。その内容は、自分の噂や悪口、命令など様々です。電波やテレパシーとして感じることもあります。その幻聴に対して笑ったり幻聴と対話すると、周囲からは突然笑ったり、独り言を言ったりするので奇妙に思われます。
「妄想」とは、明らかに誤った内容を信じていて、周囲が訂正しても受け入れられない状態の事です。「誰かに見張られている、追われている、盗聴されている」などの被害妄想や「自分は皇帝の子である」といった誇大妄想、「テレビやネットが自分に関する情報を流している」と思い込んだりする関係妄想などがあります。
こうした幻覚や妄想は、ご本人にはまるで現実であるように感じられるので、病気が原因にあると気づくことはなかなか難しいようです。ご自分には聞こえたり、見えたりするのに、家族や友達、同僚、上司、医師などの周りの人たちが皆「そんなことはない」と否定するときには、幻覚や妄想の可能性があります。 - 陰性症状
陰性症状とは「日常生活において今まで出来ていた事が出来なくなる」症状で、本来あるはずの、意欲や喜怒哀楽といった感情の起伏が乏しくなる症状です。
自分の感情が乏しくなり、他人の感情についていけなくなり、自分の殻に閉じこもって身の回りのことに関心がなくなったように見えます。また仕事や生活面での意欲がなくなるので、怠けていると思われたり、入浴など整容が保てなくなることもあります。
統合失調症の原因
発症の原因は現時点ではまだ正確にはよくわかっていませんが、統合失調症になりやすい要因をいくつかもっている人が、仕事や人間関係のストレス、就職や結婚など人生の転機で感じる緊張などがきっかけとなり、その結果、脳内の神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)のバランスが崩れて発症すると考えられています。
統合失調症であることを確定させる検査はありませんが、身体の病気(脳炎、内分泌疾患、自己免疫性疾患、脳腫瘍、てんかんなど)と鑑別を行うために血液検査、画像検査、脳波検査などを必要とすることがあり、状況に応じて専門機関をご紹介させて頂くこともございます。
統合失調症の治療
統合失調症の治療の目的は、幻覚や妄想などの症状を軽くする、記憶や注意などの障害で社会生活機能が低下するのを防ぐ、回復後は再発しないように維持するといったことになります。
一般的な治療法は、お薬による薬物治療と、心と環境に働きかけを行う心理社会的治療の二つを組み合わせ、さらに再発を予防するために「病気への正しい理解」を深めていきます。
薬物療法
薬物療法では、お薬で脳内の神経伝達物質(ドーパミンやセロトニン)のバランスを回復させることで症状を改善します。
薬物療法の中心は症状に合わせた抗精神病薬というお薬です。昔の抗精神病薬は陽性症状に効果があるものの、手の震えや便秘、眠気や体のだるさなどの副作用が大きな問題でした。
しかし新たに開発された最近の抗精神病薬は、陽性症状に加え陰性症状にも効果があり副作用も少なくなりました。
また、病状によっては補助的に、睡眠薬、抗不安薬、気分安定薬などの薬を併用することもあります。
再発しやすい疾患なので症状が安定したからといってすぐに薬を減量する事は難しく、ある程度の期間の内服が必要です。また薬をいつまで続けるのかは個人差があり一概にはいえません。しばらく症状が安定しているからと自己判断で薬を減らしたり中止したりすることは、再発を誘発する可能性がありますので、「副作用がつらい」「薬をやめたい、減らしたい」などのお悩みがある場合は、お気軽に医師までご相談下さい。
心理社会療法
心理社会療法は病気との付き合い方を学んだり、生活の質を上げる訓練を行うものす。
病気に関する知識を身につけ対処法を学ぶ「心理(疾患)教育」は、病気を正しく理解することで治療に前向きに取り組むことができ、再発予防に役立ちます。また本人を支える周囲の方が病気の理解を深めることもご本人の再発予防に効果があります。
ロールプレイなどを通して、対人関係や社会生活のスキルを回復する「生活技能訓練(SST)」、木工や料理などの軽作業を通じて、生活機能の回復を目指す「作業療法」などがあります。
これらを病状や生活状況に合わせて、様々に用います。その他、精神科リハビリテーションの代表的なものとしてデイケアがあり、様々な活動が行われています。当院では現時点デイケアは行っていないため、必要性がある場合や、ご希望があるときは、お近くの利用可能な施設を紹介させて頂きます。
メッセージ
統合失調症は未だ原因が解明されていないとは言え、脳の機能的な異常が原因であるとされており、「こころ」の問題というよりは、脳という「からだ」の病気とご理解頂くのが良いと思います。
一般的な経過では、治療によって急性期の目立った症状が治まると、回復期を経て、徐々に長期安定にいたります。急性期の陽性症状は目立つものですが、薬物療法で改善することが多く、むしろ慢性期の陰性症状こそご本人さんや周囲の方もおつらいようです。統合失調症は早期に発見し、早期に適切な治療を受けるとその後の経過が良い疾患で、これまで通り家庭生活やお仕事を続けられる方も多くおられますので、上記の症状などがございましたら、まずは一度相談してみることをお勧めします。
またお薬も日進月歩で、少量のお薬を1日1回のみで済むことも増えてきています。糖尿病や高血圧などの生活習慣病で、「病気とつきあう」といった姿勢でお薬を内服している方は多いものです。同じように「神経のバランスが崩れやすい体質」といったお気持ちで気長に病気を管理していくことも大切です。
なお症状がなくなることは喜ばしいことですが、自己判断で中途半端な時期に薬をやめてしまうと、しばらくして再発してしまうこともありますので注意が必要です。内服について疑問があるときはお気軽に主治医まで相談下さい。
※上記でお困りの方は、JR埼京線、北戸田駅前の心療内科・精神科・メンタルクリニック、北戸田駅前まつもとクリニックまでお気軽にご相談下さい。
戸田市・蕨市・さいたま市南区からアクセス良好で通院がしやすい場所にあります。また外環下の国道298号から近く、17号バイパスも比較的近いので、川口市や桜区の方のお車移動も便利です。
参考文献
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)
カプラン臨床精神医学テキスト(メディカルサイエンスインターナショナル)