双極性障害
双極性障害(躁うつ病)とは
双極性障害(躁うつ病)は、「うつ状態」と「躁(そう)状態」を繰り返す、気分障害という疾患の一種です。うつ状態と躁状態は気分の両極端な状態です。
「うつ状態」では、憂うつで無気力な状態となり、また意欲低下や食欲低下などもみられます。「躁状態」では、気分が高揚しハイテンションで活動的となり、気持ちが大きくなりすぎて社会生活や人間関係に支障が出ることがあります。躁状態でもうつ状態でもない時には、病気でない人と変わりがありません。
うつ状態だけが起こる病気を「うつ病」といいますが、うつ病だと思っていても、極端に調子が良くなり、活発になりすぎる時期がある場合は、双極性障害かもしれません。
気分の波は、ある程度誰にでもあることです。つらいことがあった時に落ち込んだり、楽しいことがあった時に気分が良いのは、ごく自然なことで病気ではありません。 でもその気分が、ご家族や周りの方からみて「大丈夫かな?」と行き過ぎていたり、ご家族や周囲の人が困ったり、社会的信用を失うほどであったら、それは双極性障害かもしれません。
双極性障害の患者さんは人口の約1%、100人に1人といわれています。これはうつ病の患者さんの頻度が、100人に10人弱であることに比べると頻度は少ないといえます。
躁状態になると、気分が高揚し、あまり眠らないでも活動できたり、次々に考えが浮かんだり、多額の買い物やギャンブルで散財するなどがみられます。また現実離れした行動をとったり、周りの人を傷つけてしまうことがあります。こういったことから、躁状態の時に家庭の崩壊や失業、破産などの社会的損失を来たすリスクがあります。またうつ状態に変わった時には、うつ症状のつらさのみならず、躁状態の時にとった行動の後悔や自己嫌悪も感じてしまうことがあります。
ここで「軽躁状態」について説明しておきましょう。この「躁状態」は入院が必要になるほどの激しい状態となることもあるのに対し、「軽躁状態」はもう少し軽いものです。気分が高揚していて、眠らなくても平気で、機嫌が良く友達との交流も活発で、仕事もはかどり、激しく怒ったり妄想が出たりすることもないので、本人も周囲の人もそれほどは困りませんが、やはり「いつものその人とは全く違う状態になってしまっている」という点がポイントです。放っておくと、いずれ逆のうつ状態になってしまう事があるため注意が必要です。
うつ状態に躁状態を伴う場合を双極Ⅰ型障害、うつ状態と軽躁状態しかない場合を双極Ⅱ型障害といいます。旧来の「躁うつ病」という病気は、ほぼ双極Ⅰ型障害に相当します。双極Ⅱ型障害は、ほぼ躁うつ病に近いもののこともあれば、うつ病やパーソナリティの問題に近い場合もあり、現状では少し輪郭のはっきりしない側面もあります。
躁うつ病とうつ病の鑑別は難しい問題です。「うつ病」のうつと、「双極性障害」のうつはその時点では見分けがつかないため、うつ病の治療経過中に躁状態が出現したり、それまでの躁状態が後々確認されたりすることではじめて双極性障害と判明することが少なくありません。
また躁状態の時は気分が良いために、うつ状態の時とは違って、治療する気にならず病院を受診しないことがよくあります。それもあってか、長くうつ病と診断されている人も少なくありません。
双極性障害とうつ病の治療には違いがあります。うつ病の治療だけを受けている場合はなかなか治らなかったり、双極性障害を悪化させてしまうことがあります。そのためご本人だけでなく、ご家族や周囲の方も、日頃のご様子や気分の波を見守り、躁状態に気づくことは大切です。
双極性障害は、精神疾患の中でも治療法や対処法が比較的わかってきている病気です。躁うつ病には気分安定薬と呼ばれる薬が有効で、気分の波をコントロールすることが大切です。また適宜、感情の高ぶりを抑える薬や気分の落ち込みを整える薬を併用する場合もあります。
症状が安定してくると、薬での治療をご自分の自己判断で中断してしまう場合がありますが、再発率がある程度高い病気なので、薬の調節は医療者と相談しながら行っていくことが大切です。
そして治療を継続すること、自分の今の気分の状態をよく知ること、生活のリズムを整えることによって、症状を安定させ、病気をコントロールしながら社会復帰を目指していきましょう。
双極性障害の症状
アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では、双極性障害の症状として下記のものをあげています。
- 躁病エピソード
気分が持続的に高揚して開放的、または易怒的となり、活動力があることが、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半続き、下記の7つのうち3つ以上があるものとされています。
※軽躁エピソードでは、同様の状態が少なくとも4日間ほぼ毎日、1日の大半において続くものとされています
- 自尊心の肥大、または誇大
気が大きくなり自分は何でもできると思い込むことです。 - 睡眠欲求の減少
3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じるなどです。何日も眠らないこともあります。 - 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
非常によく話し、会話の内容はまとまりなく次々に飛びます。相手の言うことは聞かずに一方的に話します。 - 頭の中で観念が次々と浮かび、いくつもの考えがせめぎあうような体験
- 注意散漫(外からの刺激ですぐに注意がそれてしまう)
- 目標指向性の活動の増加、または精神運動焦燥
- 困った結果につながる可能性が高い活動への熱中(制御の効かない買いあさり、性的な無分別、またはばかげた事業への投資などへの専念など)
躁状態は、基本的にはとても上機嫌ですが、根拠のない自信に満ち溢れ、尊大になることも多く、ちょっとしたことでイライラして怒りっぽくなります。気分は良く、やる気があり、次々にアイディアが出てくるため、どんどん新しいことを始めますが、すぐ気が変わるため、これらを組み立てて最後までやり遂げることができず、実際には仕事がはかどりません。
眠れないというよりは眠らなくても大丈夫と感じるといった理由で不眠に陥ることがあります。また買物やギャンブルに莫大なお金をつぎこんだり、性的に奔放になったり、後先を考えない行為をしたりして、家庭の崩壊や失業、破産などの社会的損失、これまでの人間関係を失ってしまうといった結果を引きおこす場合があります
躁状態がひどくなると、「自分には超能力がある」「天才だ」といった誇大妄想がでたりします。ご本人は気分が高揚しており「自分は病気ではない」と思っておられることが多く、治療を受けるつもりはないことが多いため、そのため説得しようとするご家族も罵倒されてしまうなど、ひどく疲れてしまうことがあります。ですが、躁状態が治れば、普段のその人にまた戻りますので、ひどいことを言われても、「病気が言わせている」といったお気持ちで、いつものご本人に戻れるようサポートすることが大切です。
躁状態の程度によっては、治療のために入院が必要になることもあります。これはその症状によって、無茶をして大きなけがをしてしまったり、莫大な浪費や社会的信用をなくすなど、ご本人自身が大きな不利益を被る可能性があるからです。
- 抑うつエピソード
2週間のうちに以下の5つが当てはまる場合をいいます
- 気分が沈んでいる(抑うつ気分)ことが続く
- 物事への興味や喜びを感じなくなる
- 体重の増減、食欲の変化
- 眠れない、また寝すぎる
- 動きや話しが遅くなる、逆に落ち着きがなくなる
- 疲労感、気力の減退
- 強い罪責感、無価値感
- 集中力や思考力がない、物事を決められなくなる
- 死んでしまいたいという気持ち(自殺願望)
※詳しくはうつ病のページをご参考下さい
双極性障害の原因
双極性障害患者さんの脳の中では、脳の働きを調節する神経伝達物質のバランスが崩れていると考えられています。
原因はまだはっきりしてはいませんが、ほとんどの病気と同じように、双極性障害も、その人がもって生まれた体質(遺伝素因)と病原体、ストレス、生活習慣などの影響(環境因子)の両者が複雑にからみ合って発症すると考えられおり、現在も研究が進められています。
双極性障害の治療
双極性障害の治療法は、大まかに①薬物療法、②精神療法的アプローチがあります。ストレスからのこころの悩み、というよりは脳内の神経伝達物質のバランスが崩れている状態ですので、薬物療法が基本になります。
- 薬物療法
気分安定薬というお薬が有効です。気分安定薬には、炭酸リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンなどがあります。これらのお薬の効果により躁やうつといった気分の波を安定させることができます。血中濃度を測りながら慎重に投与量を決める必要のある薬もあります。双極性障害のうつ状態に対して使う薬は、うつ病の時に使う薬とは違います。ですので治療してもなかなか治らないうつ病が、実は双極性障害だった、ということもしばしばあります。また適宜、感情の高ぶりや、気分の落ち込みを整える薬を併用する場合もあります。症状が安定してくると、お薬を自己判断で中断してしまう場合がありますが、再発率がある程度高い病気なので、薬の調節は医療者と相談しながら行っていくようにしましょう。
そして治療を継続すること、自分の今の気分の状態をよく知ること、生活のリズムを整えることなどによって、症状を安定させ、病気をコントロールしながら社会復帰することを目指していきましょう。
中には、薬を飲んでいる限り治ったとは言えない、と考える方もおられますが、双極性障害で予防の薬物療法をするのは、高血圧で降圧剤を飲んだりするのと違いはありません。「気分のバランスが乱れやすい体質」、といったお気持ちで、ご病気とお付き合いしていくことはとても大切です。
- 精神療法
薬物療法を中心に、精神療法を併用することは重要です。双極性障害に必要な精神療法は、いわゆるカウンセリングではなく、患者さんご本人やご家族が病気の理解を深め、受け入れ、病気と上手にお付き合いをしていく援助をするものといえるでしょう。双極性障害はある程度再発しやすい疾患ですので、予防が大切です。精神療法によって、再発のきっかけになりやすいストレス、自分の再発の兆しにすぐに気づいて、対応することができるようになれば、再発予防や、再発時の早期治療にもつながります。なお生活上の注意としては、生活リズムを守ることが大切です。双極性障害の方は、たった一晩の徹夜でも一気に躁状態となってしまうことがあります。また年中行事で親戚一同と会うなど、社会的な刺激の強い状況を機に再発する方も少なくありません。そのため毎日の生活リズムを保ち、躁状態の前触れがみられる時には、睡眠をしっかりとったり、過度の対人刺激を避けるようにするなどの対応が推奨されます。
ご家族へのメッセージ
患者さんは躁状態の時には気持ちが高揚し、自分がとても偉くなったように感じることもあり、普段は大切に思っているご家族や周囲の人に対して、罵倒したり、尊大な態度をとってしまったりすることがあります。これらから腹が立ったり、とても悲しくなるのは当然ですが、躁状態が改善した時には元のご本人に戻られますので、「病気が言わせている」といったお気持ちで、いつものご本人に戻れるようサポートすることが大切です。どのように接すれば良いか、サポートしていけば良いか、などで悩まれている方はご相談頂ければと思います。
※上記でお困りの方はJR埼京線、北戸田駅前の心療内科・精神科・メンタルクリニック、北戸田駅前まつもとクリニックまでお気軽にご相談下さい。
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参考文献
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)
カプラン臨床精神医学テキスト(メディカルサイエンスインターナショナル)